所有者不明土地の発生予防及び利用の円滑化のための民法改正
1. はじめに
所有者が不明である土地の発生予防や利用の円滑化などを目的とする民法等の改正法が、2023年4月1日から施行されます。
土地の相続などの際に所有者についての登記が行われないなどの理由で、所有者が不明である土地が増えており、所有者不明土地の面積は、九州よりも広く、国土の約22%にも上るとされています。このような管理されずに放置された所有者不明の土地は、周辺の環境や治安の悪化を招いたり、防災対策や開発などの妨げになったりしています。
そこで、2021年4月、所有者不明土地をなくすため、所有者不明土地の発生の予防と利用の円滑化の双方の観点から、民法における共有制度、相隣関係規定及び相続制度(遺産分割)等について、幅広い変更を加えることなどを内容とする民法等の改正法が成立しました。
今回は、その概要について説明したいと思います。
2. 共有制度の見直し
相続によって遺産に属する財産が相続人に共有されている場合などにおいて、各共有者は、持分に応じて共有物を使用することができますが、共有者相互の関係を調整するため、民法上、①共有物に変更を加える(農地→宅地など)には、共有者全員の同意を必要とし、また、②管理に関する事項(使用する共有者の決定など)は、各共有者の持分の過半数で決定するとされています。
この点、現行民法制定後120年以上の間の社会経済情勢の変化に伴い、共有者が土地の所在地から遠く離れていたり、共有者間の人的関係が希薄化したりして、共有者間で決定を得ることが困難になるなどの問題が指摘されていました。また、相続人の一部の所在等が不明となっている場合もありえます。特に、現行民法上は、共有物に変更を加える場合、たとえそれが軽微な変更であっても、共有者全員の同意が必要とされ、円滑な利用・管理を阻害するとされていました。
そこで、改正法では、共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の過半数で決定することができることとしました(下図参照)。具体的には、例えば、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事が、軽微変更に該当すると説明されています。
また、所在等が不明な共有者が存在する場合、現行法においては、共有者全員の同意を得ることができない以上、共有物に変更を加えることができないと解されていましたが、改正法においては、裁判所の決定を得て、所在等が不明な共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えることができることとされました。
3. 相隣関係規定の見直し
民法における相隣関係規定とは、隣り合う土地を所有する者同士が、各自の所有地を利用しやすいよう相互にその利用を調整し合うための規定を言います(例えば、他の土地に囲まれており公道に接していない土地(袋地)の所有者には、民法上、その土地を囲んでいる他人の土地(囲繞地)を通行できる権利が認められています。)。
これに関し、現行民法上、土地の所有者は、隣地の木の枝が境界線を越えて自己の土地にはみ出しているとき、その木の所有者に枝を切除するよう請求することができるものの、木の所有者が枝を切除しない場合には、訴えを提起し切除を命ずる判決を得て強制執行の手続をとるほかなく、救済を受けるための手続が過重であるとの問題が指摘されていました。
そこで、改正法では、①木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したものの、木の所有者が相当の期間内に切除しないときや、②木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときには、越境された土地の所有者は、枝を自ら切除できることとされました。
また、現行民法上、他人の土地や設備(導管等)を使用しなければ、電気・ガス・水道等の各種ライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、解釈上、他人の土地への設備の設置や他人の設備の使用をすることができると解されていましたが、明文の規定がないため、設備の設置・使用に応じてもらえないときや、所有者が所在不明であるときなどには、対応が困難でした。
そこで、改正法では、他の土地にライフラインの設備を設置する権利や他人が所有するライフラインの設備を使用する権利を明記した上で、当該権利の行使や費用負担等に関する規律の整備を行いました。
4. 相続制度(遺産分割)の見直し
相続人が複数いる場合、遺産に属する土地や建物などの財産は、遺産分割がされるまでの間、原則として相続人による共有(遺産共有)状態となりますが、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難となり、また、このような状態の下で相続人の一部の所在等が不明になり、所有者不明土地が生ずることも少なくありません。
しかしながら、現行法においては、遺産分割を長期間放置していてもデメリットがなく、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくい状況にありました。
そこで、改正法では、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後は、原則として、個々の相続人の特別受益(生前贈与等)や寄与分(療養看護等)を勘案した具体的相続分ではなく、民法で予め定められている画一的な割合である法定相続分による遺産分割しか行えないこととし、具体的相続分による分割を求める相続人に早期の遺産分割請求を促す効果を期待しています。
5. 終わりに
以上の他、施行時期は今後となりますが、①相続等により土地の所有権を取得した者が、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる相続土地国庫帰属制度の創設(2023年4月27日施行)や、②これまで任意であった相続登記の申請義務化(2024年4月1日施行)等の改正も合わせて成立しています。なお、これらの改正については、改めて別の機会にご説明させていただく予定です。
当事務所では、不動産関連法務や相続事件などの案件を幅広く取り扱っております。上記で説明した箇所の他にも、今回の改正内容は多岐にわたりますが、紙幅の関係上、その全ての詳細を説明することができないため、もしご質問やご相談等ございましたら、お気軽にお問い合わせいただければと思います。
法律事務所かがやき
弁護士 吉田 勇輝