契約違反における損害賠償責任

 皆様こんにちは、弁護士の吉田勇輝です。法律事務所かがやきのウェブサイトにお越しいただきありがとうございます。今回のトピックは、契約違反における損害賠償責任についてです。

1. はじめに

 製造させたツナ缶にゴキブリとみられる虫が混入し、ブランドイメージが傷つけられたとして、はごろもフーズが下請企業に約8億9700万円の損害賠償を求めた訴訟で、2022年11月8日、静岡地裁は約1億3千万円の支払いを命じる判決を下しました。(これに対し、下請企業は、11月17日付で控訴したとのことです。)

 現時点では判決文が公表されておらず判決の詳細は不明ですが(なお、はごろもフーズからは、判決文の閲覧制限の申立てがなされているようです。)、おそらくは業務委託契約等の契約違反に基づく損害賠償責任が認められたのではないかと考えられます。

 したがって、今回は、契約違反の場合における損害賠償責任について説明したいと思います。

2. 民法に基づく損害賠償責任

 民法第415条は、契約の相手方が何らかの債務不履行(契約違反)を犯した場合、相手方に対し、それによって生じた損害の賠償を請求できると規定しています。したがって、仮に契約において、損害賠償義務が明記されていなかったとしても、民法の当該条項に基づき、損害賠償を請求することが可能となります。

 そして、民法に基づく損害賠償が認められるための主な要件は以下のとおりです。

  • 債務者が、債務の履行をしないこと、又は債務の履行が不可能であること
  • 契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして、債務者の責めに帰すべき事由(すなわち、故意・過失等)があること
  • 債権者に生じた損害が、以下のいずれかであること
    • 債務不履行によって通常生ずべき損害(通常損害)
    • 特別の事情によって生じた損害(特別損害)のうち、債務者がその事情を予見すべきであったもの

3. 契約上の損害賠償条項

 民法の上記規定は、あくまでも任意規定ですので、契約においてこれと異なる合意をすることは可能です(ただし、契約違反の場合においても一切損害賠償責任を負わないとする条項は、公序良俗に反して無効とされる可能性がありますし、また、消費者との契約の場合、消費者契約法に基づく各種の制限が課されるため、留意が必要です。)。

 そして、契約における損害賠償条項は、契約交渉において、往々にして当事者間で激しいやり取りがなされる条項の1つです。例えば、以下のような内容につき、契約上の損害賠償条項において、民法の規定と異なる定めが設けられることがあり得ます。

(a) 債務者の帰責事由の加重又は軽減

 上記2.②のとおり、民法上は、債務者の故意・過失等の帰責事由が存在する場合に限り、損害賠償責任を負います。これに対し、契約において、故意又は重過失の場合に限り、損害賠償責任を負うとしたり(条項例1)(この場合、軽過失の場合には損害賠償責任を負わないため、債務者の責任は軽減されることになります。)、又は、逆に、故意・過失が存在しない場合であっても、損害賠償責任(厳密には、損害賠償ではなく「補償」)を負うとしたりする場合があります(条項例2)。

条項例1
 いずれかの当事者が本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方は、当該違反が違反当事者の故意又は重過失による場合に限り、違反当事者に対してその損害の賠償を請求できる。

条項例2
 いずれかの当事者が本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方は、当該違反が違反当事者の故意又は過失によるものか否かを問わず、違反当事者に対してその損害の賠償を請求できる。

(b) 損害賠償の範囲の変更

 上記2.③のとおり、民法上は、通常損害(例えば、購入した物品が不良品だった場合の修理費用等)に加え、特別損害(例えば、著しく高額な転売利益等)のうち、債務者が予見すべきであったものについても、損害賠償の対象としています。

 これに対し、契約において、予見可能性の有無を問わず、特別損害については損害賠償責任を負わないと規定することがあります(条項例3)。また、間接損害、付随損害、逸失利益等については、損害賠償責任を負わないと明記する例(条項例4)もありますが、これらについては、民法上の概念ではないため、その範囲について後々争いが生じる可能性がある点に留意が必要です。

 他方、相手方に契約違反に基づく損害賠償を請求するための弁護士費用については、民法上は、損害賠償の対象には含まれないとされていますが、契約において、弁護士費用についても損害に含まれると明記することもあります(条項例5)。

条項例3
 いずれかの当事者が故意又は過失によって本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方は、違反当事者に対してその損害(ただし、その予見可能性の有無を問わず、特別損害は含まない。)の賠償を請求できる。

条項例4
 いずれかの当事者が故意又は過失によって本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方は、違反当事者に対してその損害(ただし、間接損害、付随損害又は逸失利益等は含まない。)の賠償を請求できる。

条項例5
 いずれかの当事者が故意又は過失によって本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方は、違反当事者に対してその損害(合理的な弁護士費用を含む。)の賠償を請求できる。

(c) 損害賠償額の上限

 民法上は、損害賠償額の上限等はなく、損害賠償の要件を満たす限り、損害賠償額が青天井に認められる可能性があります。したがって、契約において、損害賠償の上限額(例えば、業務委託契約に基づく業務委託料の1年分など)を明記することがあります。

 他方、そのことは、相手方の立場に立ってみると、損害賠償額が限定されることになるため、相手方は上限額を明記することに抵抗を示す可能性もあります。これに対しては、折衷案として、軽過失による違反の場合のみ上限を設定し、故意・重過失による違反の場合には上限を設定しないとすることもあり得ます(条項例6)。

条項例6
1. いずれかの当事者が故意又は過失によって本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方は、違反当事者に対してその損害の賠償を請求できる。
2. 前項に基づく違反当事者の損害賠償責任は、●円を上限とする。ただし、故意又は重過失による違反の場合にはこの限りではない。

4. 終わりに

 契約上の損害賠償条項を検討するにあたっては、自社がいずれの立場で契約を締結するのかを常に意識する必要があります。

 例えば、業務委託契約における委託者の場合、通常、契約に従って業務委託料を支払っている限りは、自社が契約違反を犯したと主張される可能性は低く、むしろ受託者の業務内容が不十分である場合等において、受託者に対して損害賠償請求を行う可能性があります。したがって、業務委託契約における損害賠償条項を検討するに際しては、損害賠償責任の内容が不当に軽減されていないかの確認が重要となります。

 他方、業務委託契約における受託者の場合、委託者から損害賠償請求を受ける可能性があるため、損害賠償責任の内容が不当に拡張されていないかの確認が重要となります。

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弁護士 吉田 勇輝