整理解雇の有効性

 皆様こんにちは、弁護士の吉田勇輝です。法律事務所かがやきのウェブサイトにお越しいただきありがとうございます。今回のトピックは、整理解雇の有効性についてです。

1. はじめに

 報道等によれば、起業家のイーロン・マスク氏が買収した米Twitter社において、2022年11月4日以降、従業員の約半数が解雇され、また、日本法人であるTwitter Japan株式会社(以下「Twitter Japan」といいます。)の従業員についても同様に解雇の対象とされているとのことです。

 米国等においては、Employment at Will(随意雇用)といって、使用者及び労働者のいずれからでも、理由の有無を問わず、いつでも自由に解約できるという雇用形態が一般的です。海外ドラマ等において、会社から突然一方的に解雇を告げられ、段ボールに詰めた私物のみを持って、そのままオフィスから追い出されるというシーンを見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 他方、日本法上では、解雇の条件は厳格に規定されています。現時点においては、本件に関する詳細な状況等は必ずしも明らかではありませんが、本件の解雇が日本法上有効と言えるのか考えてみたいと思います。

2. 労働契約の準拠法

 まず、そもそも外資系企業との雇用関係において、日本法が適用されるのかという準拠法の問題があります。

 この点に関しては、「法の適用に関する通則法」が規定しており、原則として、当事者間の合意によって準拠法が定まるとしています(同法第7条)。そして、外資系企業であっても、日本の従業員との間の雇用契約においては、日本法を準拠法とする旨の条項が設けられているのが一般的ではないかと思われます。(なぜなら、以下のとおり、たとえ日本法以外の法律を準拠法としたとしても、一定の事項についてはいずれにせよ日本法の適用を排除できないため、それであれば、予め準拠法を日本法としておいた方が簡便なためです。)

 また、労働契約において日本法以外の法律が準拠法とされている場合であっても、当該労働契約に最も密接な関係がある地の法律(日本で勤務する従業員の場合、通常は日本法)の一定の強行規定(解雇に関する規定を含みます。)を適用すべき旨の意思を使用者に対して表示したときは、これが適用されることになります(同法第12条)。よって、労働契約において日本法以外の法律が準拠法とされている場合であっても、労働者が希望する限りは、解雇に関しては日本法の規定が適用されることになります。

 したがって、Twitter Japanの従業員の解雇に関しては、基本的には日本法の規定が適用されることになるかと思います。

3. 整理解雇の条件

 日本法上、解雇は自由に認められるわけではなく、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効とされています(労働契約法第16条)。

 そして、会社の経営不振等を理由とする労働者の「整理解雇」においては、裁判例等によって、以下の4つの要件が示されています(なお、①これらの要件を全て満たす必要があるのか、又は、②全て満たす必要はなく、これらの事情を総合考量して判断すれば足りるのかについては、裁判例の判断も分かれています。)。    

  1. 人員削減の必要性
    • 経営不振など、人員削減措置を行うことについての経営上の十分な必要性が認められること。
  2. 解雇回避の努力
    • 配置転換、出向、希望退職の募集、賃金の引下げなど、整理解雇を回避するために、会社が真摯かつ合理的な努力を尽くしたこと。
  3. 人選の合理性
    • 勤続年数や年齢など解雇の対象者を選定する基準が合理的で、かつ、基準に沿った運用が行われていること。
  4. 手続の妥当性
    • 整理解雇の必要性やその時期、方法、規模、人選の基準などについて、労働者側と十分に協議をし、納得を得るための努力を尽くしていること。

 そして、上記のとおり、本件をめぐる詳細な状況は必ずしも明らかとはなっていませんが、報道等によれば、労働者はいきなり解雇を告げる電子メールを受領したということのようですので、もしそれが事実であれば、少なくとも、上記「2. 解雇回避の努力」や「4. 手続の妥当性」を満たさない可能性があると言えます。

4. 終わりに

 以上のとおり、Twitter Japanの従業員の解雇については、日本法上の要件を満たしていない可能性があります。他方、報道等においては現時点ではあくまでも、解雇ではなく、従業員の自発的な退職を促す退職勧奨であるとしているものもあります。いずれにせよ、今後の動向等を注視していきたいと思います。

 当事務所では、使用者側及び労働者側を問わず、労働問題に関する案件を幅広く取り扱っており、特に、外資系企業の労働問題については、豊富な経験を有しています。整理解雇を行うことを予定している使用者の方や、会社に整理解雇されて困っている労働者の方など、ご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

法律事務所かがやき
弁護士 吉田 勇輝